
ぼくのママは、出かける前に変な動きをします。
ドアのところまで行ったのに、
なぜか戻ってきます。
そして部屋を見ます。
特に何も変わっていません。
ぼくもさっきと同じ場所にいます。
なのにママは、じーっと見ます。
それから、また歩き出します。
でもまた戻ってきます。
今度はコンロのあたりを見ています。
ぼくは料理のことは分かりませんが、
さっきと同じ形です。
次は窓を見ます。
次はエアコンを見ます。
最後にぼくを見ます。
ぼくは見られ慣れていますが、
今日は特に長いです。
ママの目はちょっと真剣です。
お兄ちゃんは、そういうことはあまりしません。
静かに出ていきます。
でもママは、何度も部屋を見ます。
ぼくは思っています。
部屋は逃げないし、
コンロも急に歩き出したりしません。
でもママは、毎回見ます。
たぶん、あれは「安心の儀式」なんだと思います。
全部を見て、最後にぼくを見て、
それからやっと出かけます。
だからぼくは、最後に見られたとき、
ちょっとだけ目を合わせます。
それでママが少し安心するなら、
それでいいかなと思っています。
人間は出かけるのに時間がかかります。
でもぼくは知っています。
あの確認の時間は、
ぼくを置いていくための準備の時間なんだと思います。
だから今日も、ぼくはじっとしています。
ママの安心の儀式が終わるまで。
