
ぼくの兄ちゃんは、不思議な人です。
ママは急ぐと音がします。
バタバタ歩いたり、
「あっ」「あれ?」と言ったり、
いかにも急いでいます。
でも兄ちゃんは違います。
音は静かです。
足音も静か、
声も静か。
なのに、なぜか急いでいます。
動きが少しだけ速くなって、
目線がまっすぐになって、
空気が「今しゃべらないでください」になります。
ぼくはその空気を感じると、
少し横に移動します。
じゃましないほうがよさそうだからです。
でも、出かける直前になると、
必ずぼくの頭をなでます。
急いでいるのに、そこは省略しません。
人間の時間の使い方は、
ときどきよく分かりません。
でもぼくは知っています。
兄ちゃんは、急いでいても、
ぼくのことは忘れません。
だからぼくは、
なでられたあと、少しだけしっぽを振ります。
あまり大きく振ると、
「行けなくなる」顔をするからです。
人間は急ぐのに、
なでる時間はちゃんと取ります。
それがぼくには、ちょっと不思議で、
ちょっと嬉しいのです。
